木の選定
まず、作品の中心になる木を探した。海や川にも足を運んだが、思うようなものは見つからず、最終的に購入することにした。
店の床いっぱいに並べられた木を見比べ、大きさと形を優先して選んでいる。
木の加工
表面を覆っていた古い樹皮を、工具を使って少しずつ取り除いた。その上から漆を塗り、表面を保護している。
漆は何度も塗り重ねることで独特の艶が生まれるが、今回は一度だけ塗った。漆で覆いすぎず、もとの木肌や凹凸を残すためである。
簡易的な3Dスキャンと3Dプリント
衣装やパーツの形を考えるには、実物と同じ大きさの模型が必要だった。そこで、木をさまざまな方向から撮影し、フォトグラメトリで3Dデータを作成した。
3Dプリンターで一度に出力できる大きさには限界がある。データを複数に分けて出力し、あとからつなぎ合わせて実物大の模型を作った。
衣装デザインの検討
衣装と照明機構は並行して考えた。根のどこを、どのように光らせるのか。実際につくれる構造なのか。スケッチで大まかな形を探りながら、CG上で細部を詰めていった。
当初は、根全体を黒い漆で仕上げ、ひび割れた部分に金継ぎを施す案もあった。しかし、加工を加えるよりも、木がもともと持っている形や細部を残すことにした。
衣装制作のR&D
江端さんとDANさんによる衣装チームが、仮のデザインをもとに試作と検証を進めた。
ダウンジャケットらしいボリュームやシワをどうつくるか。服として着脱できる機能を残しながら、複雑な木の形にどう合わせるか。検討することは多かった。
試作を重ねた末、衣装を複数のパーツに分けてつくることにした。分割したパーツをつなぐことで、ダウンジャケット特有の膨らみをつくっていく。
衣装の土台には、木の形に沿う薄いパーツが必要だった。このパーツを「皮膚パーツ」と呼び、3Dプリンターで制作することにした。
衣装の最終デザイン
服飾デザイン用のCGツールを使い、布の柔らかさや膨らみを設定しながら、衣装の形を決めていった。
このツールは通常、二次元の型紙から立体の服を組み立てるように設計されている。しかし、木の形が複雑だったため、通常の方法では対応できなかった。そこで、木の3Dモデルへパーツの境界線を直接描き込みながらデザインした。
本番用の精巧な3Dスキャン
衣装の検討と並行して、照明チームと樹脂の枝について話し合った。柳沢さんの提案を受け、木を株式会社日南へ持ち込み、本番用の精密な3Dスキャンを行うことにした。
自分たちで作った3Dモデルには、プリンターの精度や分割出力による誤差があった。模型として使う分には問題なかったが、木と樹脂を正確につなぐ機構を設計するには、そのわずかな誤差が支障になる。
日南には、精密なプロトタイプをつくるための設備と、それを扱う職人の技術がある。ここからは、高精度のスキャンデータをもとに設計を進めた。
ベースパーツと熱対策パーツの設計
精密なスキャンデータを使い、どの枝を樹脂に置き換えるかをCG上で検討した。
LEDの光が周囲へ漏れすぎないよう、図中の赤い箇所には遮光テープを貼ることにした。テープを貼った状態で光がどう見えるかも、CGで確認している。
LEDの熱が衣装へ直接伝わらないように、厚さ4.5mmの嵩上げパーツを設計し、その上に厚さ1.2mmの皮膚パーツを重ねる構造にした。
特に難しかったのが、嵩上げパーツの設計だった。複雑な木の表面へ沿わせながら、わずかでも木にめり込まない形にする必要があった。普段なら意識しないような、コンマ数ミリ単位の調整が続いた。
3Dプリント出力(皮膚パーツと嵩上げパーツ)
皮膚パーツと嵩上げパーツには、熱対策として難燃性のフィラメントを使った。
嵩上げパーツは形が複雑で、3Dプリントに何度も失敗した。設計と出力の調整を繰り返し、すべてのパーツがぴたりとはまったときの手応えは忘れられない。画面上にあったデータが実物となって目の前に現れる感覚も、強く印象に残っている。
樹脂の枝の出力と木の加工
柳沢さんにスキャンデータを整えてもらい、日南で樹脂の枝を出力した。サポート材を付けた状態で出力し、取り外したあとに表面を磨いている。
木には照明機構を取り付けるための加工を施し、樹脂と接合する箇所の余分な部分を切断した。実物の複雑な形が、透明な樹脂でそのまま現れた。
樹脂の枝とLED機構の取り付け
引き続き日南で、樹脂の枝を取り付ける箇所を加工した。LEDの熱を逃がすヒートシンク用の加工も行い、照明機構が設計どおりに収まるかを確認した。
パーツの組み立てと配線
衣装チームと照明チームが集まり、この日までに準備してきたパーツを持ち寄った。衣装以外のパーツを、一気に組み立てていく。
それぞれが個別に作ってきたパーツが木に取り付けられ、配線が加わるにつれて、自然物だった根の姿が少しずつ変わっていった。
衣装の実制作
ここからは衣装チームの作業となる。
ダウンジャケットとして見えることを大切にし、ファスナーやボタンなど、実際の服に使われる部品を取り入れた。江端さんが経験をもとに、その場で細部を調整していく。そうした手仕事によって、「木が服を着ている」という考えが具体的な形になった。
照明のプログラム制御
照明機構の設計とプログラミングは、平田さんが担当した。
5本の樹脂の枝は、それぞれ個別に制御している。全体を見たときの視線の流れを考えながら、一本ずつ光量を調整した。光るタイミングや長さもプログラムで設定している。
5本の光は、普段はそれぞれ異なるタイミングでゆっくりと明滅する。ある瞬間にすべてがそろい、強い光を放つ。ばらばらだった光が一つになることで、生命が呼吸するような脈動をつくった。
コンセプトムービーの撮影
撮影場所は、活動の拠点である宮城県内に絞った。できるだけ人の手が入っていない、原始的な森の表情を撮るために、何度もロケハンを重ねた。
なかなか条件に合う場所が見つからなかったが、ある日、ふと立ち寄った山あいで理想の場所に出会った。撮影は日が暮れる直前から、暗くなるまでの時間に行った。
撮影は塩川さんが担当し、i.cebergチームの北畠と石川もサポートに入った。
山には深い霧が立ち込めていた。日のあるうちは美しく見えたが、暗くなると闇に吸い込まれるような怖さがあった。美しさと怖さの両方が残る森だった。塩川さんは、明るさとともに変わっていく森の表情をカメラに収めた。
コンセプトムービーのサウンド
サウンドデザインは光森さんが担当した。制作部屋には、さまざまな機材が所狭しと並んでいた。
風の音や川のせせらぎ、低く唸るような音まで、すべてシンセサイザーとサンプラーで制作した。光を表す音には、電磁シンセサイザー「Chromaplane」を使っている。
Chromaplaneは、電磁ピックアップコイルを本体へ近づけながら音を奏でる楽器である。デジタル機器でありながら、手の動かし方がそのまま音に表れる。その制作風景には、テクノロジーと手仕事を組み合わせた本作との共通点があった。